コラム

中国サイバーセキュリティ法の解説

1.     サイバーセキュリティ法とは

 

 サイバーセキュリティ法とは、データ三法[1]の中で基本法に位置付けられ、ネットワーク運行やデータの安全などを全面的に規定する法律です。


2.     対象者の定義

 

 サイバーセキュリティ法は、主として次の主体に対しサイバー空間の安全に関する各種の規制を規定しています。


ネットワーク運営者とは、ネットワーク(コンピュータ等の情報端末や関連設備によって構成される情報システム)の所有者、管理者及びネットワークサービス提供者をいう(法76条)。

重要情報インフラの運営者とは、ネットワーク運営者のうち重要情報インフラを運営する者をいう。重要情報インフラとは、公共通信、情報サービス、エネルギー、交通、水利、金融、公共サービス、電子政務、国防科学技術工業等の重要な業界と分野に属しており、その他のひとたび機能の破壊若しくは喪失又はデータの漏洩に遭遇すると、国家の安全、経済、民生又は公共の利益を著しく脅かす恐れのある重要ネットワーク施設、情報システム等をいう(法31条)。

ネットワーク製品・サービス提供者とは、ネットワークに関連する設備、ソフト等を生産及び販売する企業並びにクラウドコンピューティングサービス、データの処理及び保存サービス、インターネット通信サービス等を提供する事業者をいう。


 重要情報インフラの運営者については、ある企業が重要情報インフラ運営者に該当する場合、当局から通知がくるようになっていますので、個別に通知がないのであれば、重要情報インフラの運営者に該当しないと理解して問題ありません。


3.     ネットワーク運営者の義務


(1)   全体の整理

•          ネットワークセキュリティ等級保護制度に従い、セキュリティに関する各種措置を実施する義務(法21条)
•          ネットワークセキュリティに関する緊急対応策を制定する義務(法25条)
•          公安機関、国家安全機関が国家の安全を維持する活動を行う場合や犯罪捜査を行う場合に技術サポートの提供や協力をする義務(法28条)
•          ユーザー情報の秘密保護義務、情報保護制度を確立する義務(法40条)
•          ユーザーの個人情報を収集・使用する場合、収集・使用に係る規定を公開し、個人情報の収集・使用の目的、方法、範囲を明示する義務(法41条)
•          収集した個人情報を漏えい、改ざん、破損してはならず、また、同意を得ずに第三者に個人情報を提供してはならない義務(法42条)
•          情報の是正を求められた場合に、措置を講じて削除等する義務(法43条)
•          情報セキュリティに関する苦情申立て及び通報の制度を確立する義務(法49条)
 
 上記は、ネットワーク運営者に関する主な規制を整理したものですが、特に積極的な事前措置が求められるのは、法21条とサイバーセキュリティ等級保護制度です。


(2)   法21条

21条 サイバーセキュリティ等級保護制度の要求に従い、次に掲げる安全保護義務を履行し、ネットワークが妨害、破壊されたり、授権されていないアクセスを受けたりすることがないよう保障し、ネットワークデータが漏えいするか、窃取されるか、改竄されることを防止しなければならない。
① 内部安全管理制度及び操作規程を制定し、ネットワークの安全責任者を確定し、ネットワークの安全にかかる保護責任の確実な履行をはかる。
② コンピューターウィルス及びサイバー攻撃、ネットワーク侵入等のネットワークの安全を脅かす行為を防止する技術的な措置を講じる
③ ネットワークの運行状態及びネットワークの安全にかかる事件のモニタリング及び記録にかかる技術措置を講じ、なお且つ規定に従い関連する ネットワークのログを少なくとも 6か月間保存する
④ データ分類並びに重要データのバックアップ及び暗号化等の措置を講じる
⑤ その他、法律及び行政法規に定める義務


 法21条は、ネットワーク運営者の安全保護義務を規定し、1号から5号を定めています。本条柱書にあるとおり、前提として、自社の情報システムに関してサイバーセキュリティ等級を把握しなければなりません。専門機関に依頼し、等級認定を受けることが必要です。


(3)   サイバーセキュリティ等級認定


 サイバーセキュリティ等級認定とは、データが改ざん、漏えい、喪失、損壊に遭遇した場合について、国家の安全、社会秩序、公共利益、公民、法人その他の組織の合法的権益を侵害する程度に応じて、ネットワークの安全レベルを分類し、これを認定するものです。下表のとおり、最も軽い1級から最も重い5級に区別されます。この等級によって、具体的な安全保護義務の内容も変わることから、法21条の前提となっているということです。
 
 2級以上の場合は、等級認定確定後、公安機関に届出をしなければならないとされ(情報セキュリティ等級保護管理弁法15条)、さらに、3級以上の場合は、専門機関による審査を受け、その上で、届出をするとされています(同法18条)。
 
 等級認定に応じて、法21条の履行として何をどこまで実施すべきかを検討することになりますが、特に技術的な措置については、専門業者のサポートを得る必要があります。


客体

損害の程度


一般的な損害

重大な損害

特に重大な損害

公民、法人等の合法的な権益

1級(最も軽い)

2級

2級

社会秩序、公共の利益

2級

3級

4級

国家の安全

3級

4級

5級(最も重い)


[1] サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法の三法の総称を指す。


著作者情報

IP FORWARD 法律特許事務所
日本国弁護士 前田 堅豪



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