コラム

中国における冒認商標出願対応の実務

目次

1、はじめに

2、中国における冒認商標出願のパタン

3、商標冒認出願に対する対策


はじめに

 

 中国における冒認商標出願、すなわち、権利者とは無関係の第三者が無断で行う商標出願は、かつて日本でも大きく報道されたこともあり、よく知られているところですが、弊所でも1か月に数件のペースでご相談を頂いており、あいかわらず日本企業が被害に遭う状況が続いています。


 そこで、今号では、商標出願、冒認出願対応を担当している弊職が、商標冒認出願に関する基本的な対応、および、その際の重要ポイントについて紹介させていただきます。



中国における冒認商標出願のパタン


(1)中国で未登録の外国登録商標の冒認出願


 これは、商標自体が中国で登録されてないことを奇貨として、中国業者が無断で商標出願する類型であり、外国企業がよく被害に遭うパタンです。このパタンの冒認出願は、ビジネスへの影響が一番大きく、場合によっては、既に使用している商標の変更を余儀なくされたり、冒認商標権者から権利行使されたりするリスクもあります。


 この場合の事例として、IP FORWARD Newsletter 2018年11月号の「日本「無印良品」が商標権侵害訴訟で敗訴」のニュースでもご紹介した、中国企業による「无印良品」商標(24類)の冒認出願・登録により、日本の株式会社良品計画(以下、「良品計画社」という)が訴えられ、結果的に、訴訟の一審では、本来の権利者である良品計画社の行為が商標権侵害として認定された事例があります。


 また、米国の「アップル社」や「ニューバランス社」などのケースも、同じように冒認業者に権利行使された事例として挙げられます。


パタン(1)の冒認商標例



 なお、最近、日本のコンテンツが中国への進出が多くなったことに伴って、特にコンテンツ関係の作品名、キャラクター名称・図形について、このパタンの冒認出願が増えつつある傾向があります。


パタン(3)の冒認商標例


 
(2)既登録商標の未登録商品・役務部分の冒認出願/既登録商標の類似商標の冒認出願


 これは、商標自体は登録されているものの、登録されていない商品、役務について出願したり、あるいは、登録商標に類似する商標で未登録のものを出願する類型です。このパタンの冒認出願は、(1)のパタンと異なり、使用商標、使用商品・役務そのものが冒認されているわけではないので、権利者への影響は間接的ですが、こうした冒認商標が登録になった場合、実務上、当該冒認商標を使用した模倣品に対する権利行使が難しくなる傾向にあるため、模倣品の氾濫に繋がるリスクがあります。


パタン(2)の冒認商標例


商標冒認出願に対する対策


 商標冒認出願に対する対策は、事前措置、事後措置の2つに分けて考える必要があります。


(1)事前措置


 ① 商標出願


 事前措置の中で最も重要なのは、こうした冒認商標の被害を見越した商標出願になります。特に、パタン(1)については、商標出願を行ってさえいれば、被害を容易に防げたわけですから、商標出願のタイミングは早ければ早いほどよく、中国に進出する前、又は新しいブランドを展開する前に、予め商標を出願することは望ましいと思います。


 また、パタン(2)で考えると、ブランドの知名度、展開計画、予算等を考慮して、周辺製品・役務に商標を積極的に出願することを検討すべきと思われます。例えば、衣服を販売する場合、25類(服装等)のほか、18類(かばん等)等、その他のアパレル関係区分についても積極的に商標出願することにより、冒認出願を事前に防ぐ対応が考えられます。また、主要ブランドと近い標識を防衛目的で出願することもよく見受けられ、例えば、ユニ・チャーム株式会社様では、著名な「ソフイ」ナプキンの中国ブランド「苏菲」の冒認出願を最大限に排除するため、「苏菲」のほか、「苏飞」、「苏霏」、「酥菲」、「素飞」、「舒妃」、「SUFEI」等書き方や発音が類似する標識も商標出願しています。


 ② 商標ウォッチング


 なるべく早いタイミングでこうした冒認商標を見つけ出し、早めに後述の事後対策を取り、冒認商標による影響を最小限に抑えるため、権利者自ら、また、代理人を通じて、冒認商標の有無を適宜ウォッチングすることは考えられます。


(2)事後措置


 ①  異議申立

 

 異議申立は、冒認商標が初歩公告されてから3ヶ月以内に、商標局に申請する必要があります。

 

 商標局は、異議申立を審理する際に、主に、a)冒認商標と権利者の商標などの先行権利との類似度、b)先行権利の知名度、c)冒認出願業者の悪意性を考慮のうえ、冒認商標の登録を判断します。特に申立人側によって提出されるb)、c)の内容により、異議申立の審査状況が大きく変わることがありますので、これら証拠収集は、異議申立の際の重要ポインになります。


 なお、参考までに、b)先行権利の知名度、c)冒認出願業者の悪意性の証拠資料の例を下表にまとめました。

立証趣旨

資料カテゴリー


証拠資料例


先行権利の知名









基本情報

先行権利商品に関するパンフレット、チラシ、カタログ等

販売関連情報


先行権利商品に係る販売契約、領収書、出荷・入荷伝票、販売料金に係る銀行入金記録、輸出入伝票等の販売実績に係る資料

先行権利商品の販売地域、販売代理、販売ルート、販売方式に係る資料

宣伝・広告関連情報


先行権利商品のラジオ、映画、テレビ、新聞、定期発行物、ネット、 広告看板、メディア評判、及びその他の広告・宣伝活動に係る資料、及び広告会社との契約書、発票、統計データ、銀行送金記録等広告宣伝支出に係る資料

出展写真、主催者の配布パンフレット、関連報道等先行権利商品の展示会、博覧会出展に係る資料、及び主催者との契約書、発票、銀行送金記録等展示会参加支出に係る資料

第三者評価に関する情報



権威的な機構や、業界協会が発表・発行した先行権利商品の売上、 納税額に関する統計、ランキング、広告額統計額

先行権利商品の受賞歴

その他第三者による先行権利商品に対する報道、新聞、テレビ、ラジオの報道資料

権利行使情報

先行権利を根拠とした、関連政府部門での摘発実績、その他模倣対策実績を証する資料

冒認出願業者の悪意




  



  -




冒認出願業者は権利者との間の業務往来、その他のトラブル、従業員等内部人員往来などに関する契約書、覚書、メールやりとり等

冒認出願業者は冒認商標を利用して権利者に合作、譲渡・ライセンス費用の要請に関する書面、メールやりとり、録音等

冒認出願業者は冒認商標を利用して嘘偽宣伝、模倣品製造・販売など不法行為を行ったことに関する処罰決定書、公証書等

冒認出願業者のその他の悪意・非正常出願行為(他の有名ブランドの冒認出願行為や使用を目的とせず大量に商標を出願行為など)を証する商標出願履歴等



b)の証拠資料は、原則、冒認商標出願日以前の中国国内のものが必要とされることを留意する必要はあります。また、権利者自ら収集した証拠に不足がある場合、代理人を利用して、ウェブサイトや中国国家図書館などから証拠収集することも考えられます。


c)については、弊所は同証拠を収集するために、異議申立の前に、冒認出願業者調査をよく実施しており、模倣業者の心理を把握した専門調査員が冒認業者にうまく接触して、なるべく多くの使える証拠を取るように心がけています。


 最後、近年、商標局は冒認商標の対応を強化しており、下のグラフの通り、その結果、異議申立の勝率は年々上がっています。


商標異議申立認容率推移(2013年~2017年)[1]


② 無効審判

 特段の事情を除き、権利者は、冒認商標が登録されてから5年以内に、中国商標評審委員会に無効審判を申請できます。無効審判の審査の際の考慮要素、証拠資料例、証拠収集注意事項は異議申立とほぼ同様になります。

③ 3年間不使用取消


 登録してから3年間が経過した冒認商標に対しては、不使用取消を申請することができます。商標局の公表した統計データから、近年、3年間不使用取消の成功率は50%以上と推定されます[2]。冒認商標の大半は使用目的で出願されるものではなく、不使用取消を通じて、冒認商標を取り消せる可能性は一定程度あると思われます。


 なお、3年間不使用取消は誰でも申請でき、特に、外国権利者が不使用取消審判を請求しようとすると、相手方から権利行使をされるリスクがあるため、代理人などの名義を活用して不使用取消を行うことを検討して良いと思われます。


④  商標買取


 上記①~③の手段を通じて、冒認商標の無効化を図ることが困難である場合、最終的な手段として冒認業者からその商標を買い取り、当該商標を譲り受けるという対応も考えられます。


 商標の買取りの対価については一概には申し上げられませんが、1商標あたり、数万元~数十万元となること多い印象があります。もちろん、案件によって、その対価は更に高くなってしまう可能性もあり、例えば、冒認された「IPAD」商標について、アップル社は最終的に約3.8億元で買い取っている事例も存在します。


 また、商標を買取する際、価格の釣り上げをなるべく避けるために、通常は権利者の名義による打診・交渉をするのではなく、無関係の第三者が先方に接触して、例えばですが、同業界の商標取引業者などの身分を装い、冒認業者と交渉することが推薦されます。


以上


[1] データ出所:中国商標ブランド戦略年度発展報告(2017年)
[2] 中国商標ブランド戦略年度発展報告(2017年)のデータによると、2017年不使用取消で取り消された商標は合計2.8万件となります。これらの不使用取消は、主に2016年の後半、2017年前半で申請されるものであり、そして、2016年全年の不使用取消申請件数は4万件程度、2017年は5.7万件であることから、2016年後半、2017年前半の不使用取消の申請件数は5万件程度で、3年間不使用取消の成功率は50%以上と推定されます


著者情報

IP FORWARD 

中国弁護士

周 婷/Zhou Ting

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