コラム

中国特許技術取引の概況と価値評価の考え方


 近年、中国の国際社会での影響力が増すにつれて、国際社会から知財保護に関する要望が急増しています。それに基づいて、中国政府も知財関連ビジネス環境の改善、知財保護戦略の強化策を次々と打ち出されています。2018年の「一帯一路」知財権会議に対して、習主席は「知的財産権制度は「一帯一路」の共同建設の促進にとって重要な役割を持つ。中国は厳格な知的財産権保護を揺るぎなく実施し、全ての企業の知的財産権を法に則って保護し、良好なビジネス環境とイノベーション環境を築く。」と強調して以来、中国における特許技術取引環境が大幅に改善しています 。


 中国科技部の統計によると、2021年の中国特許技術取引総額(譲渡・ライセンス、開発、サービス、コンサルティングの合計)は3.72兆元で、過去最高の取引額を記録しました。そのうち、特許技術譲渡・ライセンスが3,246.6億元で、全体の8.7%を占めており、2020年度と比べて35.4%成長しました。今後もますます増えるかと考えられます。


出典:「2020全国技術市場統計年報」


 一方、取引の分野について、「電子情報」[1]、「都市建設と社会発展」[2]、「先進製造」[3]の三分野は上位を占めています。それもまた、中国の国策に影響される結果でしょうか、2023年現在も、当該三分野が、投資の要だと言われています。


価値評価と留意点

 前述のように、中国において、近年特許技術取引が盛んで行われており、日本企業の多くも関与して、中国企業に特許技術譲渡やライセンスすることも増えています。そこで、取引上最も重要である価格決定(価値評価)は重要だと認識されています。


 特許技術の評価法については一般的に「コスト・アプローチ」、「インカム・アプローチ」、「マーケット・アプローチ」の3方法が多用されています。ただ、評価目的や取得できる情報の制限等によって使い分けています。


 「コスト・アプローチ」は資産評価日の調達コストの金額から各項目の減価償却費を除いた後、資産の評価価値を計算することによって資産価値を評価する方法で、実際に当該特許技術はどれくらいの利益を生み出されるかを考慮していません。


 「マーケット・アプローチ」は評価対象となる知的財産同類な特許資産の評価金額や取引金額を参照して評価する方法です。しかし、本方法最大の問題点は、特許技術取引の多くは非公開のため、十分な参照データを得られないことです。


 「インカム・アプローチ」は当該資産が事業活動などに用いられることによって生み出される収益(インカム)の規模をベースに評価する方法であるため、中国企業に特許技術譲渡・ライセンスする場合は、通常「インカム・アプローチ」を多く使われています。但し、中国の企業に譲渡・ライセンスを検討して、「インカム・アプローチ」を利用する際に、いくつかの留意点がございます。


インカム・アプローチの計算式は下記通りである。




1.予想収益の評価(R)


 「インカム・アプローチ」の中核は特許技術による収益の評価計算です。収益は特許技術運用(コスト)と、外部環境(売上)によって影響されます。特許技術運用コストは、設備投資、原材料調達、人件費、販売費等が含まれます。外部環境は市場の需要、人口、購買力等を考えられます。特許技術運用コストについて、既に日本で実用化されているのであれば、それらのデータをベースに中国の現状に合わせて加味するとよいです。例えば、人件費は中国のデータに置き換えてみたり、原材料調達費についても中国のデータを利用した方良いでしょう。一方、外部環境について、中国同業種または類似業種の企業の財務データ等を利用することが推奨されます。実務上では、中国の価値評価会社に依頼して評価することが少なくありません。しかし、中国の事情がよくわからないまま、評価会社により、価値評価してもらうことが不安で、先に自社で算出すると考える企業も最近増えています。但し、中国の市場状況が把握できず、自社評価が難航するケースも多いです。そこで、中国事情の詳しい専門会社に依頼し、算出必要なデータ(人件費、原材料価格、参考企業の売上、営業利益等)を取得し、当該特許技術の状況と合わせて予想収益を算出すると良いと思われます。


2.特許技術寿命(i)の決め


 どのような特許技術でも一定の寿命(可用年数)があります。そこで、譲渡・ライセンスする前に改めて分析する必要があります。実務上では、自社の特許技術開発チームを絡んで決めることが多いが、留意するのは可用年数と特許の法定年数の区別です。中国では、特許の法定年数が20年と定めているも、多くの特許技術は20年待たず、新たな技術によって代替されるわけです。


3.その他留意点


 予想収益と特許技術寿命の他、ライセンスアウトする場合のロイヤリティ率や、割引率(r)を配慮する必要があります。ロイヤリティ率は業界によって異なるため、予め中国の当該業界の一般的な料率を適用すると良いです。ちなみに、国際連合工業開発機関の統計データによると、各国の特許技術取引契約におけるロイヤリティ料率の幅は概ね0.5%~10%で、工業生産における特許資産の収益分担比率は5%〜10%という範囲に近づく傾向があります。一方、割引率について、CAPMを利用することが多いが、実務上、正確の数値を出すことがほぼ不可能であろうかと考えております。


 その理由としては、やはり、リスクプレミアの部分の不安定性にあります。CPAMはリスクフリーレート(RFR)とマーケットリスクプレミア(MRP)によって構成され、RFRは銀行が資金を調達する際の銀行の信用リスク等をほとんど反映しない金利のことで、多くの場合は、国債の利回りを使うことが一般的です。MRPは当該特許技術が所在する業界、時期等様々な要素に影響されます。そのため、私たちは、割引率の下限は中国の国債利率で、上限は、更に、中国にある同業企業のデータ(平均値)を用いて加味すると良いと考えております。


特許技術譲渡・ライセンスの一般的な流れ


特許技術譲渡・ライセンスを実施する場合、一例として、次のようになります。
 
①特許技術有効性を初歩的に確認・評価
②対象特許技術の将来性、譲渡・ライセンスアウト可能性を初歩的に評価し、価値算出
③譲渡・ライセンスアウト先候補の探索
④取引交渉の実行
⑤契約成立


 特許技術の譲渡・ライセンスにおいて、価値評価は当然最重要であるが、中国企業へのアプローチも譲渡・ライセンスアウトできるかどうかを左右されます。弊社は、これまで特許に関して、数多くの案件を取り組んでおり、特許技術の価値評価はもちろん、譲渡・ライセンスアウト先の探索から、契約設立までワンストップサポートすることができます。特許技術譲渡・ライセンスにご興味のある方、ご相談したい方はぜひお問合せください。

以上


[1] 一般的に、電子材料から電子部品・デバイス、最終製品に至るまで、IT・エレクトロニクス産業等を指す。
[2] 一般的に、建築、水利、交通等市政建設に関するインフラ整備を指す。
[3] 一般的に、次世代情報技術産業や自動車製造業、現代科学工業・エネルギー産業、大健康産業(注)、現代農作物加工産業等を指す。



著者情報

IP FORWARD 

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