成功報酬型・一斉訴訟に関する権利行使方法の紹介
近年、中国の模倣対策において一斉訴訟の活用が増えており、沿岸部大都市の裁判所のみではなく、内陸都市の裁判所も、一斉訴訟の件数が大幅に増加していることをその受理する案件の特徴として取り上げており、一部の裁判所においては、その受理する一斉訴訟の件数は知財侵害案件の全体の85%を超えていることもあります[1]。本コラムでは、一斉訴訟に関する権利行使方法を紹介したいと思います。
一斉訴訟とは
一斉訴訟(集団訴訟とも言われますが、以下、「一斉訴訟」という)とは、特定している多数の模倣業者に対して、まとめて、民事訴訟を提起する権利行使方法です(対策に要する費用は、成功報酬型となるのが通常です)。一斉訴訟において、通常、同じ権利者が多数の模倣業者に対してそれぞれ訴訟を提起することになり、もし、100社の模倣業者が存在する場合、100件の訴訟を提起することになります。
一斉訴訟の活用原因
模倣品対策において、民事訴訟は、その効果は高いものの、コスト等の関係で最終手段として利用されるのが一般的です。一方、一斉訴訟においては、基本的に、完全成功報酬型の費用体系を採用し、訴訟で得られた賠償金をそのまま対策費用に割り当てることから、民事訴訟、そのための調査・証拠収集等の作業に関する代理人費用及び実費については、通常かかりません。即ち、一斉訴訟の対策では、権利者の費用負担をほぼゼロとしながら、模倣業者に対してダメージを与えていくことが実現できます。これが、一斉訴訟が活用される最大の理由です。
一斉訴訟の費用体系
通常、成功報酬型・一斉訴訟において、調査(オンライン調査を中心)、証拠収集、民事訴訟の実費及び弁護士費用は代理人が負担し、代わりに、訴訟で得られた賠償金は代理人がもらう、という費用体系をとっています。
一斉訴訟の訴訟件数
個々の模倣業者から賠償金を回収できるかどうか、いくら回収できるかについて不確定なところがあり、また、一斉訴訟で得られる賠償金は通常の民事訴訟より低いため、対策コストを十分に賄うためには、一斉訴訟の対策においては、大量の件数の訴訟を同時に進めていく必要性があります。訴訟件数の目安は大体100件以上/権利者になりますが、1件ごとに得られる賠償金が高く見込める場合、または完全成功報酬型ではなく、権利者の方で一部の費用を負担する場合は、件数を下げて、十数件や数十件で対応することもあります。
一斉訴訟を利用するための条件
多数の模倣業者に対して速やかに訴訟を進め、賠償金をスムーズに回収するために、一斉訴訟の利用において、模倣業者が多い、侵害が明確で真贋鑑定しやすい、証拠収集しやすい等の条件を満たす必要があります。
一斉訴訟の利用における留意点
一斉訴訟の対策コストがほぼゼロであることはメリットですが、一方、やり方に注意しなければ、かえって企業イメージを毀損したり、権利無効化リスクが高まったりする恐れがあります。
例えば、「青花椒」(青山椒の意味を有する)商標権者である上海万翠堂社による一斉訴訟において、被告らによる看板やメニューにおける「青花椒」の使用は、料理の調味料、原材料を説明するための合理的な使用であると解釈され、上海万翠堂社の行為は金銭目的の悪意ある訴訟であると多くの批判を招きました。最終的に、上海万翠堂社は謝罪声明を発表し、進行中のすべての訴訟を取り下げるに至りました。
また、韓国化粧品メーカーであるネイチャーリパブリックによる一斉訴訟において、零細化粧品小売店を中心に4,000件以上の訴訟を提起したことにより、かかる訴訟は、模倣品の排除ではなく、賠償金の獲得が目的であると批判され、また、同社が訴訟に用いた「NATURE REPUBLIC」商標も無効化されてしまいました。
上記のような風評リスクや無効審判のリスクを回避するために、一斉訴訟に対する反感を招かないよう、訴訟件数をコントロールする等、一斉訴訟のやり方に注意する必要があります。
まとめ
一斉訴訟は、権利行使のコストを最小限に抑える手段として、特に、模倣被害が多い場合は、その活用を積極的に検討して良いと思われます。一方、一斉訴訟を利用するために一定の条件を満たす必要があり、また、利用する際に注意しないと逆に風評リスク等があるため、一斉訴訟の対策を取り入れる前に、実際の模倣品被害状況を踏まえて、一斉訴訟を利用できるか、どのように利用していくかを代理人とも検討しつつ決めていくことが重要です。
以上
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中国弁護士