コラム

模倣業者からの損害賠償金を獲得する方法

 中国においては、現在も多くの日本企業が模倣被害に遭っており、被害を少しでも抑えるべく、権利者は多くの費用を現地模倣対策のために投じている状況にある。模倣対策の主な手段としては、摘発、警告、リンク削除などになるが、処罰が科されたとしても、権利者に模倣対策に投じた対策費用が償還されることは基本的にはない。

 模倣業者への民事訴訟は、模倣業者に対して損害賠償請求をすることで、模倣対策費用を償還することが可能だが、訴訟には一定の時間を要し、また弁護士費用もかかるため、必ずしも、すべての案件について推奨されるべき手段とはならない。

 このような背景の元、弊方では民事訴訟以外の手段で、模倣業者から費用を回収すべく、模倣業者に対して損害賠償金の請求という形で、訴訟外で交渉(以下、「賠償交渉」という)する対応を推奨させていただいている。一般的には、模倣業者がプレッシャーを受けている場面において、賠償交渉は成功しやすくなる傾向があるため、こうした代表的な場面と、場面ごとの賠償交渉のポイントを、実例も踏まえつつ紹介する。

刑事摘発における賠償交渉

 案件規模が大きい場合、模倣業者に対する刑事摘発が可能となるが、その過程で賠償交渉を実施すると、模倣業者から賠償金を取得できる可能性が相対的に高い。具体的には、摘発直後、模倣業者が身柄拘束されている間に、代理人がその責任者と個別に交渉を行い、権利者から模倣業者に対して更なる民事訴訟を行わないことなどを引き換え条件として、賠償金の支払いを求めていく流れとなる。

 刑事摘発では、模倣業者の責任者は必ずどこかで身柄拘束されるため、模倣業者にとっては大きなプレッシャーが与えられている状態であり、また、刑事裁判で多額な罰金を支払う前段階で比較的資金に余裕があることもあって、結果として、賠償交渉が成功しやすい傾向にある。弊方の過去対応実績では、成功率は6~7割程度で、模倣業者の資力が大きければ大きいほど成功しやすく、また、模倣業者も比較的高い確率で契約どおりに賠償金支払いを履行する傾向がある。獲得できる賠償金の相場は一概には言えないが、1件あたり5~50万元程度(100〜1,000万円相当)となることが多い。

 賠償交渉を通じて、双方が合意できれば、通常、模倣業者との間で賠償金支払いを合意する合意書/和解契約書を締結することが推奨される。この書面では、賠償金支払いの他に、再犯した場合の違約金も明確にし、関連する模倣業者が大きい案件は、共犯者らにかかる情報の提供も要請することも考慮すべきである。

税関差止における賠償交渉

 税関による模倣品差止の際も同じように、賠償交渉を実施することが可能で、模倣業者から賠償金を取得できる可能性がある。すなわち、税関にて貨物が差し止められた場合で、模倣品を廃棄する、又は侵害標識を除去することを条件として、差止め申請を取り下げることと引き換えに賠償交渉をする。

 流れとしては、まず、税関職権による模倣品差止を受けて、権利者はこれに関する差止申請を税関に提出し、その直後に模倣業者との賠償交渉を開始する。交渉成立時には、模倣品の廃棄、或いは模倣品に付されている侵害標識の除去義務を合意されたうえ、再犯した場合の違約金を明確にした合意書/和解契約書を締結する。事案によっては海外業者情報の公開も要請、合意することも目指すべきである。

 書類締結後、模倣業者から権利者側に賠償金が支払われたことを確認した後、権利者は税関に提出した差止申請について取下げの申請を行い、貨物を模倣業者に返す形となり、この一連の賠償交渉、賠償金支払いの履行、差止申請の取下申請は、原則として、貨物差止申請日の30日以内に終わらせる必要がある。貨物が模倣業者に返還された後の模倣品廃棄作業には、権利者又は代理人が現場に必ず立ち会うようにすべきで、この点も合意書に明記するべきである。

 このパタンで獲得できる賠償金の相場は貨物の価値にもよるが、5~30万元程度(100〜600万円相当)であることが多い。他方、最近では海外に輸出される模倣品の数量の小ロット化してきており、差止めによる模倣業者側の損失、行政処罰の程度は低くなる傾向があるため、全体に税関差止の際の賠償交渉に応じる業者は必ずしも多いとは言えず、成功した場合でも、取得できる賠償金は小額となってしまうことも少なくない。

まとめ

 上述のとおり、民事訴訟以外でも模倣業者から賠償金を取得できる場面が増えてきているので、こうした場面に遭遇した場合、通常の対策手段以外に、賠償交渉の是非も併せて検討すべきであるが、一方で、権利者企業によっては、模倣業者から金銭を取得することについて抵抗感を持たれることもあるが、模倣業者に金銭支払いの義務を課すことで制裁にもなり、また、模倣対策は継続的、安定的に実施していくことが肝要であるところ、権利者企業によっては継続的に十分な対策費用を捻出することも必ずしも容易ではないので、効果的な対策を継続していくための手段として、賠償交渉の意義を認識していくべきであると思料する。

パタンごとの取りまとめ


項目

刑事摘発パタン

税関差止パタン

成功率

交渉実施のタイミング

責任者の身柄拘束期間中

差止申請直後

権利者が譲歩する内容例

民事訴訟提起の放棄

差止貨物の返還

成功しやすい条件

・被害規模が大きい
・模倣業者の資力が大きい

・模倣業者が貿易業者
・模倣品破棄又は侵害標識の除去が容易


以上

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