中国における税関模倣品差止の概況
中国は模倣品の主要生産拠点として世界中から注目されています。中国で生産された模倣品が世界中へ拡散し、多くの企業に売上低下やブランド価値の毀損をもたらしています。こうした状況への対策として、中国における税関模倣品差止制度(以下「税関差止制度」という)を活用することはとても有効です。この制度の活用は、企業が自社ブランドの知的財産権を守り、模倣品の流通を抑制するブランド保護のための重要な一手となります。
① 各種統計
税関差止制度は、主に「中華人民共和国知識産権税関保護条例」及び「中華人民共和国知識産権税関保護条例の実施弁法」に基づいて実施されており、商標権、著作権、特許権、実用新案権、意匠権に係る侵害品輸出入を検査・差止できる制度になります。
2023年、中国税関は輸出入の過程で貨物の通関中止措置を6.7万件実施し、実際に侵害の疑いのある貨物を6.21万ロット、8,288.94万点の差止をしました[1]。その中でも、商標権侵害案件は特に顕著で、商標権侵害に疑いのある貨物を6.16万ロット、8,172.75万点の差止をし、それぞれ年間差止総数の99.12%と98.6%を占めています。
中国税関での知的財産権侵害貨物差止件数の推移
また、越境ECルートにおける侵害の疑いのある貨物は、2.66万ロット、430.32万点の差止をし、前年比でそれぞれ26.4%、6.6%増加しました。
越境ECサイトでの知的財産権侵害貨物差止件数の推移
地域別で見た場合、上海、寧波、広州、深圳などの東部沿海地域は依然として通関中止措置件数が多く、侵害の疑いのある貨物を合計4.95万ロット、8,179.29万点差止をしており、それぞれ地域別で見た年間差止総数の79.71%、98.67%を占めています。
そのほかにも、太原、重慶、貴陽などの税関では差止ロット数が前年比で2倍以上増加し、合肥、鄭州などの税関では、差止数量が前年比で2倍以上増加しています。中国税関としても、知的財産権保護に対する姿勢が向上していることが見受けられます。
② 制度のメリット・デメリット
税関差止制度を活用するメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
・単独で侵害調査や摘発を実施するケースと比較して、コストが安く済む。
・委任状や知的財産権の証書などを提出するだけで済み、登録のための手続きが簡単である。
・税関から通関中止の通知が届くので、権利者の知り得なかった模倣品販売業者を発見することができる。また、稀に上流業者の情報を得られる場合もある。
・侵害品の量が多い場合、刑事案件へ発展する可能性がある。
・被差止者から和解の相談があった場合、交渉により、和解条件に同意の上、和解金を得ることができる。
・差止情報の統計から、権利者のブランドの模倣品が流通しやすい地域を特定できる。
デメリット
・正規品が通関中止となる可能性もあるが、通関業者をホワイトリストに登録することで回避できてしまう。
・真贋鑑定のために社内に鑑定態勢を構築する必要がある。かつ3営業日以内に回答しなければならないため、早急な対応が求められる。
・写真ベースでの鑑定となるため、税関へ行かないかぎり実物での鑑定が不可能。
・税関からの通関中止の連絡が多い場合、費用もそれに応じて増える(通関中止の件数は、税関のブランドへの認知度に左右される)。
② 権利登録
税関差止制度を利用するためには、中国税関に対して権利登録を行う必要があります。登録できる権利として認められているのは、取締の対象となっている商標権、著作権、特許権、実用新案権、意匠権の5つです。
2023年のデータ[1]によると、権利者による中国税関への新規のアカウント開設申請数は4,217件であり、そのうち4,504件が審査を通過しました。また、知的財産権の登録申請は21,203件であり、そのうち19,009件が承認されています。
2023年の中国税関知的財産権登録のグラフ
中国税関知的財産権登録案件
※「専利権」とは、「特許権」「実用新案権」「意匠権」の中国での総称です。
権利登録のフローチャート
中国税関において権利登録をするためには、まず中国税関の知的財産権保護登録システムでアカウントを開設する必要があります。アカウント開設後、権利者の持つ知的財産権を登録することが可能になります。アカウント登録及び知的財産権の権利登録には、委任状、登記簿謄本、知的財産権の証書を準備する必要があり、これらの手続きにはおおよそ3か月程度かかることが一般的です。
④ 税関差止について
中国税関への権利登録後、中国各地の税関より、知的財産侵害物品に該当すると思われる貨物には通関中止の通知が届きます。その際、権利者及び委任された代理人はその対応をしなければなりません。
税関差止のフローチャート
真贋鑑定のイメージ図
権利者及び委任された代理人は、税関より通関中止の連絡を受けた場合、中国のカレンダーで3営業日以内に真贋鑑定をし、鑑定結果を税関に連絡する必要があります。したがって、社内において税関より届いた写真から正規品か模倣品かを判別する、あるいは税関に赴いて直接鑑定する体制を構築しておくことが求められます。
しかしながら、税関から届く写真が鑑定に適さない場合や、そもそも写真が送付されてこないケースもあります。さらに言えば、権利者が税関に赴いて直接鑑定を行うことは、現実的には難しいケースも少なくありません。弊社では、これらの諸問題を解決すべく、中国各地に拠点を構え、必要に応じて即座に税関へ赴き、鑑定に適した写真を撮影できる体制を整えてあります。
鑑定の結果、模倣品と認められる場合には、権利者は税関に対して担保金を振り込むとともに、差止申請を行います。その後、中国税関は被差止業者に対する行政処罰(貨物の没収や罰金等)を下すことになります。
⑤ 最後に
日本だけでなく全世界に模倣品が流通しないようにするためには、税関差止制度を強くおすすめします。中国における税関差止制度は、権利者にとって強力な武器になり得ますが、その効果を最大限に発揮するためには、現地での迅速な対応や専門的な知識が不可欠です。その点、弊社には長年の経験の蓄積があり、かつ複数の税関専門家が在籍しておりますので、スピーディーで的確な対策をご提供することが可能です。また、弊社では現在キャンペーンを実施しており、権利登録まで無償でご対応させていただいております。ご興味がある場合はお気軽にご相談ください。
弊社実績状況と税関サービスの費用相場
[1] 出典:中華人民共和国海関総署 日付:2024年4月25日 http://gdfs.customs.gov.cn/customs/xwfb34/302425/5837035/index.html
[2] 出典:中華人民共和国海関総署 日付:2024年4月25日 http://gdfs.customs.gov.cn/customs/xwfb34/302425/5837035/index.html
著者情報
担当:IP FORWARD オフライン模倣対策部