中国向け越境ECビジネスの展開に関する法的注意点
近年、インターネットビジネスの急速な発展及び新型コロナウイルスの流行を背景に、中国の越境ECビジネスは急成長を見せている一方で、多方面のトラブルやコンプライアンス上の懸念も出てきています。これに対し、中国では2019年に「電子商取引法」が施行されて以降、越境EC業界に対する中国当局の規制の体制がますます整備され、強化されてきています。本稿は、中国における越境ECビジネスに関する最新の規制動向を踏まえて、日本企業が中国で越境ECビジネスを展開する際の法的注意点の概要を紹介します。
1. 知的財産ポリシーとリスク管理
(1)積極的な権利登録を
越境EC事業者は、模倣品が出回った際の権利行使に備えるために、また自社の知的財産権への冒認登録を防ぐために、あらかじめ中国で専利権(発明、実用新案、意匠を含む)、商標権、著作権、回路配置利用権などの知的財産権を積極的に登録しておくことが第一義です。また、知的財産権を悪質な業者によって冒認登録されていないか否かを調査しておくことも大事です。
(2)積極的な権利行使を
越境EC正規品のシェアを守り、またブランドイメージの保護・向上を図るために、模倣品の流通情報を積極的に収集し、また適時に権利行使措置をとることを提案します。もし模倣行為の規模が大きく悪質性が高い場合は、オフラインでの調査を行い、侵害行為に関する証拠を保全した上、必要に応じて民事訴訟、行政摘発及び刑事通報など、より強力な権利行使措置を講じることができます。
(3)並行輸入について
現行の中国法によると、越境ECを通じて中国に平行輸入された商品は正規品に該当するため、知的財産権侵害に触れるリスクが低いとされるが、既に中国で販売されている同商品のシェアを侵食し、かかる中国国内の販売者との間で利益の抵触が生じる可能性があります。したがって、越境EC商品の並行輸入に関わる中国国内の利害関係者の有無を事前に調査し、必要に応じて契約条項などを通じて潜在的なトラブルを回避することを提案します。
2. 広告宣伝コンプライアンス
越境EC事業者は中国国外に設立されたものであっても、中国の消費者向けの越境ECプラットフォームで広告宣伝する場合、中国の広告法関連の規制を受ける可能性があります。実務でよく見られる越境EC商品の広告法違反事例の種類について、虚偽宣伝、絶対的な表現の使用、類似商品への悪意の低評価、医療用語の誤用、国の尊厳や利益への損害などが挙げられます。広告法違反で中国における越境ECの事業展開に支障が出ないよう、必要に応じて弁護士などの専門家に相談し、越境EC商品の広告用語が広告法に適合しているか否かを事前に確認しておくと望ましいです。
3. データコンプライアンス
中国では、2021年以降、「データ安全法」「個人情報保護法」をはじめとするデータコンプライアンスに関する法令が次々と公布・施行されており、個人情報の取り扱いに関する規範的な要件が明確になってきています。また、2022年7月7日に公布された「データ越境の安全評価弁法」は、データの越境移転に要する安全評価の原則と具体的な手続きさらに明確にしました。以上を踏まえて、越境EC事業者はデータ関連の法規制を熟知し、コンプライアンス遵守の前提でビジネスを展開すべきと考えています。
4. その他の法的注意点
(1)税関登録に関するコンプライアンス
中国税関総署の関連規定によると、中国国外に設立された越境EC事業者は、中国国内に設立された企業に依頼して税関登録を行わなければなりません。
(2)返品・交換ポリシーのコンプライアンス
近年、中国税関総署は、越境EC商品の返品・交換の規則に関する多数の政令を公布し、関連の規則が明確化されつつあります。そのため、越境EC事業者は、自社の越境EC商品の返品・交換ポリシーが最新の法規制に合致しているか否かをチェックする必要があります。
(3)保税倉庫内の貨物に関するリスク管理
保税倉庫内の貨物及び帳簿金額の変動は関税その他税関の規制にかかわっています。中国税関の関連規定によると、越境EC事業者は、貨物の数量変動、毀損もしくは滅失、または帳簿金額の変動に対して合理的に説明できない場合は、行政処分を受ける可能性があります。従って、貨物が破損や滅失した場合には、その原因が不可抗力か否かを確認し、直ちに税関に申告すべきです。
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IP FORWARD法律特許事務所