コラム

地名を含む中国商標出願における典型事例解説「TOKYO」を例としての一考察

 商標の識別力とは、商品の出所を識別できる特徴を持つことを指し、言い換えると、消費者が「誰の商品・役務かを識別する目印となる力」を持つことです。商標の審査にあたり、識別力の審査はその重要な一環となります。なお、新「商標法」は 2019年 11 月 1 日の実施から、すでに三年以上が経過しています。この新しい「商標法」の実施とともに、商標審査・審理基準も新たに改革され、識別力に関する審査の詳細が改めて訂正されました。そのため、識別力に関する審査は、従来よりますます厳しくなり、識別力による拒絶が多くなる傾向が見られます。それにもかかわらず、一回識別力問題の原因で拒絶となった商標が、必ずしも登録できないわけではなく、実際には拒絶査定不服審判で拒絶査定を覆して、一転登録となる事例もあります。以下に、地名「TOKYO」を含む中国商標拒絶査定不服審判において、官庁がかかる商標の識別力の有無を判断して、登録出願が許可されたか却下されたかの例を紹介したいと思います。


<事例1:第59746529号商標「TOKYO OCTOBER」の拒絶査定不服審判>


■案件概要


◆出願商標



◆国家知識産権局による拒絶理由


 当該商標は、指定役務に使用すると、識別力に欠けるため、商標として登録できないので、商標法第10条第2項の規定に従い、拒絶査定を下す。


 (商標法第10条第2項:中国の県レベル以上の行政地域の地名もしくは公衆に知られている外国地名は、商標とすることができない。ただし、その地名がほかの意味を持つ場合、または団体商標、証明商標の一部である場合は、この限りではない。既に登録を受けた地名を含む商標は、引き続き有効である。)


◆拒絶査定不服審判での認定


 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。


 拒絶査定不服審判の審査を経て、出願商標の中で「TOKYO」は日本の首都の英語名称であり、公衆に広く知られている外国の地名であるため、商標として使用してはならない。出願商標は「中華人民共和国商標法」第10条第2項に規定された情状に該当している。出願人より提出された証拠は、出願商標が使用可能性と登録可能性を有することを証明するには不十分であった。


 よって、「商標法」第10条第2項、第30条、第34条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における役務において使用することができず、その出願を却下する。


■IPFコメント


 この案件から、「周知性のある地名+英語の普通な単語」との組み合わせのような商標に対し、官庁が商標全体の識別力が欠如しているという判断傾向が見られます。


 また、この商標において、中国の識別力審査において、欠点となる要素は下記が考えられます。


 ①「TOKYO」と「OCTOBER」のフォントが一致していること

 ②商標が上下2段となり、「TOKYO」が上段となること


 ①につきましては、「TOKYO」と「OCTOBER」がいずれも本件商標の主要部分となり、「TOKYO」部分は商品産地を示す補助的な視覚効果がなく、商標の識別要部の1つとして機能していることが指摘されます。


 ②につきましては、商標を識別する際における視点のスタート部分が上段となり、その重要性が下段よりやや高くなるため、この点から見ると、「TOKYO」部分が商標の識別要素として更に重要であると言えます。


 上記を踏まえ、地名を含む出願商標を出願する際には、なるべく、地名自体が商標の識別要部となることを避けて、フォントを小さくし、目立たないようにすることが望ましいと考えられます。


<事例2:第44941174号商標「PUMA TOKYO 2021」の拒絶査定不服審判>


■案件概要


◆出願商標



◆国家知識産権局による拒絶理由


 当該商標は、指定商品に使用すると識別力に欠けており商標として登録できないので、商標法第10条第2項の規定に従い拒絶査定を下すこととなった。


◆拒絶査定不服審判での認定


 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在審理を終えている。


 拒絶査定不服審判の審査を経て、出願商標の中で「TOKYO」は日本の首都の英語名称であり、公衆が知られている外国の地名であり、商標全体は、地名自体より強いほかの意味が生じておらず、そのため、当該商標として使用できないことが判断された。出願商標はすでに「中華人民共和国商標法」第10条第2項に規定された情状に該当しているため、商標として登録することができない。出願人が提出した証拠は、出願商標が使用可能性と登録可能性を有することを証明するのが不十分であり、また、ほかの商標の登録は、当該商標が登録される当然性があるということは認められなかった。


 よって、「商標法」第10条第2項、第30条、第34条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品においてその出願を却下することとなった。


■IPFコメント


 本件商標には、「PUMA」という知名度がやや高い商標が一部含まれています。しかしながら、本件出願者である「PUMA-SE」が日本の会社ではなく、ドイツに所在する企業であることが原因で、この商標が依然として官庁によって拒絶されていると思われます。


 地名を含む商標は、元々商品の産地を示す機能が強いため、一般商標よりも慎重に審査されます。会社の所在地とその地名が異なる場合、消費者に産地・出所の混同・誤認を惹起させる可能性があるため、識別力問題もしくは誤認で商標が拒絶されることがあります。


 特に注意が必要なのは、千葉、横浜、川崎などの首都圏都市に本社を置く企業が「TOKYO」を含む商標を使用することが多いということです。しかしながら、中国でこのような商標を出願する場合、商標の地名と所在地の不一致により、商標が最終的に登録できなくなり、ビジネスに影響が出る可能性があることに留意が必要です。この場合、なるべく地名部分を取り除いてから中国で出願することが望ましいでしょう。


<事例3:第46127820号商標「UCC TOKYO CUPPA」の拒絶査定不服審判>


■案件概要


◆出願商標



◆国家知識産権局による拒絶理由


 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠けておりさらに誤認を引き起こす可能性があるため、商標として登録できないと判断され、商標法第10条第2項、商標法第10条第1項第(7)号の規定に従い、拒絶査定を下す。


◆拒絶査定不服審判での認定


 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在審理を終えている。


 拒絶査定不服審判の審査を経て、出願商標の中で「CUPPA」は「一杯のお茶」と翻訳することができ、商標として「お茶、アイスティー、お茶飲料、お茶の代用品として使用される花や葉」以外の商品にも使用することができ、消費者が商品の成分、原料などの特徴に誤認しやすいため、すでに「商標法」第10条第1項第(7)号に規定されている情状に該当しているため、商標として登録できない。


 また、出願商標のうち「TOKYO」は「東京」と訳すことができ、一般に知られている外国の地名に該当するため、本件商標はすでに「商標法」第10条第2項に規定されている情状に該当している。出願人より提出された証拠は、出願商標が使用可能性と登録可能性を有することを証明するのに不十分である。また、ほかの商標の登録は、当該商標が登録を受ける当然な理由にはならない。


 よって、「商標法」第10条第1項第(7)号、第10条第2項、第30条、第34条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品においてその出願を却下する。


■IPFコメント


 本件商標は、同じブラックな背景部分の中にあるとはいえ、「UCC」と下の「TOKYO CUPPA」部分には一定的な距離感があるため、2つの別々の独立部分に捉えられる可能性もあります。この場合、中国商標の視点からみると、2つの独立部分として見られ、審理を講じる可能性が高くなります。商標全体だけではなく、「TOKYO CUPPA」部分に識別力があるかどうかも考慮されます。


 また、当該部分の識別力について、もし、この語彙の組み合わせが地名及び商品特徴を直接記述する意味を超える全体としての意味合いがあれば、たとえば「LONDON FOG」のようになっている場合、一定程度の登録可能性があります。しかし、残念ながら、「TOKYO CUPPA」はこのような地名及び商品特徴を直接記述する意味を超える全体としての意味合いを持っておらず、2つの単語の意味合いからしか解釈できないので、本件は拒絶査定が下されました。


 上記から、地名を含む商標を出願する場合、なるべく識別力を有する部分と伴って出願したほうが良いですが、商標態様によっては、地名部分の独立性を弱めるため、できるだけ識別力を有する部分から離れないほうが、その登録可能性が高くなると思われます。


<事例4:第29173763号商標「三河屋製麵MIKAWAYA SEIMEN TOKYO JAPAN」の拒絶査定不服審判>


■案件概要


◆出願商標



◆国家知識産権局による拒絶理由


 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠ける商標として登録できないので、商標法第10条第2項の規定に従い、拒絶査定を下す。


◆拒絶査定不服審判での認定


 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。


 拒絶査定不服審判の審査を経て、出願商標の中の主要識別部分は「三河屋製麵」であり、当該商標は、地名及び国名より強いほかの意味合いがある。「TOKYO」及び「JAPAN」は、出願人の所在地を表記する機能のみであるため、商標法第10条第1項第(2)号、第10条第2項の規定に違反されていないとした。


 よって、「商標法」第28条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品にて初歩査定を与えるものとする。


■IPFコメント


 本件商標は、中国語部分+アルファベット部分の組み合わせ商標となります。中国語部分及び英語部分はいずれも、識別力を有する単語「三河屋/「MIKAWAYA」を有しています。また、商標全体からみれば、「三河屋製麵MIKAWAYA SEIMEN」部分のフォント字体が比較的に大きく見えます。この場合、視覚の焦点は「三河屋製麵MIKAWAYA SEIMEN」に集中されやいため、商標の主要識別部分に該当します。地名が現れる「TOKYO JAPAN」は、主要部分の「三河屋製麵MIKAWAYA SEIMEN」部分を修飾する補助的な部分となり、このような場合、消費者は、「日本東京からの三河屋製麵MIKAWAYA SEIMEN」という意味合いが比較的に理解しやすく、消費者の混同・誤認が発生する可能性が下がる傾向が見られています。


 上記を踏まえると、地名を含む商標を出願する場合には、本件商標が比較的に良い手本例となります。なるべく多くの識別力を有する部分を含め、商品元の所在地を示すような商標態様で出願することを検討することができます。


<事例5:第30745490号商標「1934 TOKYO及び図」の拒絶査定不服審判>


■案件概要


◆出願商標



◆国家知識産権局による拒絶理由


 当該商標は、指定商品に使用すると、識別力に欠けるため商標として登録できないので、商標法第10条第2項の規定に従い、拒絶査定を下す。


◆拒絶査定不服審判での認定


 商標出願人が当局の拒絶査定に不服があり、拒絶査定不服審判を申請した。当局はその請求を受理し、現在、審理を終えている。


 拒絶査定不服審判の審査を経て、出願商標の中に「TOKYO」部分が含まれているが、商標全体としては「TOKYO」という地名とは意味合いが異なるため、関連公衆に混同・誤認を引き起こす可能性は低く、商標法第10条第1項第(2)号、第10条第2項の規定に違反されていないと判断された。


 よって、「商標法」第28条の関連規定に基づき、出願商標が不服審判における商品にて初歩査定を与えるものとする。


■IPFコメント


 本件商標は、中心部の「G」にデザインが施されたため、官庁では図形のように見られています。よって、中国の官庁は当該商標を「1934 TOKYO及び図」のように識別しています。中国の商標視点からみれば、当該商標の文字部分「1934 TOKYO」は、年代と外国地名のみの組み合わせのみであり、一見では商標としての識別力が欠如している典型的な例となります。


 たたし、拒絶査定不服審判において、拒絶査定が覆すのは、おそらく下記の点が考えられます。


 (1)「1934 TOKYO」は、あくまでも視覚面積が少なく、本件商標の最も大きな視覚面積を占めているGロゴが当該商標の識別力を有する主要部分となっていること

 (2)本件商標を出願したのは有名な野球チームの読売巨人軍であり、当該野球チームは確かに1934年にて東京に設立したチームである。つまり、「1934 TOKYO」には虚偽な記述がなく、その部分は年代・場所を示す記述性を有する非識別要部に該当すること


 よって、地名が現れる「1934 TOKYO」は、主要部分の「Gロゴ」部分を修飾する補助的な部分となり、このような場合、消費者は、「Gロゴ」標章の所有者は1934年にて東京に設立したという意味合いが比較的に理解しやすく、消費者の混同・誤認が発生される可能性もそれとともに下がっていく傾向が見られます。


 上記を踏まえると、地名を含む商標を出願する際には、本件のように、文字部分が識別力欠如に該当する場合でも、ロゴ要素の識別力比較的に強ければ、試しに拒絶査定不服審判をかけてみる意義があると思われます。同様な案例が増えることを期待しています。


著者情報

IP FORWARD 

中国商標代理人

戴 元/Dai Yuan

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