コラム

産業財産権について行政措置の制裁を定めるベトナムの新政令(政令第46 /2024/ND-C P号)

はじめに


 2024年5月4日に、改正知的財産法の内容を踏まえて、産業財産権に関する行政措置の制裁規制を中心とした政令第46 /2024/ND-C P号(以下「政令第46号」という。)が発布された。この政令は、2013年8月29日付政令第99 /2013/ND-CP号の条文を改正・追加するものとなり、2024年7月1日に施行予定である。
 
主な修正と追加
 既定内容は多岐にわたるが、主な内容は以下のとおりである。


1.     新たな制裁対象行為の追加

 政令第46号では、いくつか新たな侵害行為が、制裁の対象となる旨が示された。例えば、特許、実用新案、意匠を適切な対価なしに不正に使用する行為、産業財産権に関するサービス契約における顧客への関連費用の不開示などが新たに追加された。


2.     営業秘密に関する罰則の強化

 営業秘密侵害に対する罰金について、もともとの5,000,000~15,000,000ドン(約200~600米ドル相当)から、50,000,000~100,000,000ドン(約2,000〜4,000米ドル相当)へと大幅な引き上げがなされた。ベトナムにおける営業秘密保護の強化の現れといえる。


3.     ドメイン名の一時保留 

 政令第46号は、商標、商号、地理的表示に関する侵害がある場合に、当該対象のドメイン名を一時的に保留する措置の導入について規定している。これにより、行政手続きの処理中において、被申立人に対して、ドメイン名の現状維持を要請することができるようになる。
 本規定の趣旨としては、申立てを提起された侵害者が、ドメイン名を変更して他の当事者に譲渡することを防ぐことであり、ドメインにおける商標権侵害等について、より実効的な措置が期待される。


4.     商号の強制変更

 政令第46号では、商号に関する侵害があった場合の商号の強制変更という制裁を追加した。これにより、制裁決定の発効日から60日以内に侵害者にて手続きを行わない場合、当該侵害者は商号の変更を強制される。行政当局から企業登録機関への通知は、上記実施期限の満了後10日以内に行われることになる。


5.     行政措置への苦情の申請

 行政摘発の申立てについて、申立人にて処理に不満などがある場合に異議などを申し立てる手続きが明記されることになった。具体的には、申請を受け付けた当局が以下の手順を実行する。
 
①苦情等が発生したことを記録した日から10日以内に、管轄当局に苦情、告発、紛争の解決を求める手続きを実行することを要求する。

②産業財産権を担当する国家機関に対し、苦情等の対象となっている産業財産権の法的地位を明らかにするよう要請する。産業財産権を担当する国家機関は、要請を受理した日から10日以内に、苦情等の対象となった産業財産権の法的地位を明らかにする書類を提出しなければならない。

③申立人から苦情等の要請を受けた機関は、国家知的財産庁の書面による回答を受領した日から30日以内に、制裁を要請した者の産業財産権侵害を処理するために要請を進めるか否かについて回答する責任がある。
 
 当局側での手続き遅延に対して迅速化を求める手段として、この規定を活用する可能性があり得る。


終わりに

 政令第46号では、営業秘密の制裁強化、手続きの明確化など概ね歓迎すべきルールの改定がなされているといえる。一方で、例えば、産業財産権侵害に対する警察の権限強化も規定されているが実効性に疑問が残る点もあり、今後の運用について注視していく必要があると考える。


著者情報

IP FORWARD 法律特許事務所
弁護士 鷹野亨

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