コラム

中国契約において留意すべきポイント

本稿では、中国契約において留意すべきポイントを条項例とともに解説する。
 

1.     全文(当事者と目的)

●●●●株式会社(以下「甲」という)と、●●●●有限公司(以下「乙」という)とは、●●●●に関して、次のとおり、●●契約(以下「本契約」という)を締結する。


正確な企業名称によってどの企業が当事者となるのかを特定する。特にグループ内に会社が多く存在する場合、注意が必要である。
 
特殊な背景事情がない場合は、契約の目的は、「●●に関して」と簡単に触れるだけでよいが、個別事情のより、一見すると相手方に一方的に不利な条項がある場合は、事後になって、相手方から「不平等で無効ある」との主張をさせないため、契約締結に至った経緯や目的を詳しく記載することもある。


2.     秘密保持

甲及び乙は、相手方から提供を受けた技術上又は営業上その他商業上の情報について、第三者に開示又は漏洩してはならない。但し、次の各号のいずれかに該当する情報はこの限りでない。
 
(1) 秘密保持義務を負うことなく既に保有している情報
(2) 相手方から提供を受けた情報によらず、独自に開発した情報
(3) 秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
(4) 本契約に違反することなく、かつ、受領の前後を問わず公知となった情報
(5) 開示することに関し、相手方より事前の書面による承諾があった情報
(6) 法令により開示することが義務づけられた情報


中国では営業秘密漏洩が多発しており、特に注意が必要である。条項例はごく一般的な内容であり、実際の条項では、甲乙どちらが秘密情報の開示側となるか、また、どのような秘密情報の開示があるかを検討した上で、条項の内容を決める必要がある。具体的には、秘密情報の定義、秘密情報に接触できる者、管理体制の監視、秘密情報の廃棄、損害賠償などについて、個別に義務の軽重を検討する必要がある。


 
3.     解除

1 甲又は乙は、相手方が本契約で定める事項に違反し、相手方に対して●営業日の期間を定めて催告後、当該違反が是正されなかった場合には、書面による通知をもって本契約の全部又は一部を解除することができる。
2 甲又は乙は、相手方が次のいずれかに該当し、本契約の目的が実現できない場合には、相手方に対する催告なく、本契約を解除することができる。
(1) 債務超過、支払不能、破産、解散又はこれに類する状態となった場合
(2) 監督官庁より営業許可取消、営業停止処分を受け、又はその他本契約の履行に必要な資格を取り消された場合
(3) 資本減少、合併、解散、営業の廃止又は営業の全部若しくは重要な一部の譲渡の決議を行い、資産信用又は事業に重大な変更が生じた場合
3 前項の規定に基づく本契約の解除は、損害賠償の請求を妨げない。


契約上の義務違反があった場合の催告解除と破産その他高度な信用不安状態における無催告解除の規定を設けることが一般的である。中国では、違反があっても解除に素直に応じないことも少なくないため、破産その他高度な信用不安状態以外にも、特に重要な債務の不履行に関しては、積極的に無催告解除の事由を定めるのがよい。


4.     通知

1 本契約に関連して各当事者が行う通知は、郵便、ファックス又は電子メールによるものとする。
 
甲:
《住所を記入》
《ファックス番号を記入》
《E-mailアドレスを記入》
 
乙:
《住所を記入》
《ファックス番号を記入》
《E-mailアドレスを記入》
 
2 前項の通知は、ファックス又は電子メールについては、発信後翌日に到達したものとみなし、国際書留郵便については、発送して●営業日後に到達したものとみなす。


中国では、WeChatなどのSNSが業務上の連絡に用いられることが多いため、通知手段として利用したいと相手方が要求してくる場合がある。しかし、WeChatの内容は証拠化しにくいため、通知手段は書面やメールとするべきである。


 
5.     言語

本契約は、日本語で作成されるものとする。本契約の中国語訳が作成され、本契約と中国語訳との間で解釈に齟齬が生じた場合には、日本語版を優先する。

中国の裁判所や仲裁機関を紛争解決機関として選択した場合には、事実上、中国語訳をベースに審理されることになるため、日本語版と中国語版の内容に齟齬がないかを十分にチェックする。


 
6.     不可抗力

甲及び乙は、地震、台風、水害、火災、戦争、感染症の流行その他の予見不能で、かつ、その発生及び結果を防止又は回避することができない不可抗力によって発生した本契約の義務(金銭支払い義務を除く)の履行不能又は履行の遅延については、違約責任は負わない。甲又は乙は、不可抗力により、本契約の義務の履行不能又は履行の遅延に陥った場合、その旨を直ちに相手方に通知しなければならない。


不可抗力事由を具体的に列挙して一定の合理的範囲に限定する。金銭債務については、日本法では、不可抗力をもって抗弁とすることができないと規定されているが、中国法ではかかる規定が明記されていないことから、準拠法を中国法とする場合には、条文例のように、この点を明記しておいた方がよい。


 
7.     準拠法と紛争解決

(準拠法)
本契約の締結、効力、解釈、履行及び紛争の解決は、 全て中華人民共和国の法律を適用する。
 
(紛争解決)
本契約の履行の過程で紛争が発生した場合、友好的な協議を通じ、これを解決しなければならない。協議が調わない場合、被告所在地において管轄権を有する裁判所に訴訟を提起し、解決を図るものとする。
 
 
 
(準拠法)
本契約の締結、効力、解釈、履行及び紛争の解決は、 全て日本国の法律を適用する。
 
(紛争解決)
本契約に関連する一切の紛争は、甲乙の協議により解決するものとし、協議により解決できない場合には、関係仲裁機関に対し仲裁を申し立てるものとする。この場合において、甲が被申立人となる場合は、一般社団法人日本商事仲裁協会により、その商事仲裁規則に基づき、日本国東京都において仲裁を行うものとする。乙が被申立人となる場合は、中華人民共和国北京市にある中国国際経済貿易仲裁委員会により、仲裁申立時における当該委員会の有効な仲裁規則に基づき仲裁を行うものとする。いずれの場合も、仲裁判断は終局的なものであり、全ての仲裁の当事者に対して拘束力を有する。


日本法と中国法、いずれを準拠法とするかについては、契約類型に応じて、それぞれのメリット及びリスクを考慮した上で選択することになる。いずれを準拠法にした場合でも、多くの権利・義務は、契約書の条文に基づくことから、重要な条項を契約書に明記することが重要である。
 
日本の裁判所の判決は中国で執行不可なため、「中国側を被告として提訴する場合について、日本の裁判所を管轄裁判所とする」規定は避けなければならない。
 
相手方の主な債務が金銭の支払いとなる場合、債権回収の迅速性を踏まえた管轄の検討を要する。中国の裁判や仲裁を選択する方が迅速でスムーズな執行を確保できるという点で有利である。


著者情報

担当:IP FORWARD 法律特許事務所
弁護士 前田 堅豪


関連記事はこちら

中国、東南アジアにおける法律、ビジネスでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

お電話でのお問い合わせはこちら
ご不明な点はお気軽にお問合せください。

近日開催セミナー

人気記事ランキング

カテゴリ一覧

タグ一覧