【中国】パワー半導体市場について
はじめに
中国のパワー半導体市場は、EV(電気自動車)や再生可能エネルギー分野の急成長により、今後数年間で大幅な拡大が見込まれています。パワー半導体は、エネルギー効率の向上や電力制御に不可欠な技術です。そのため、特にエネルギーの効率化が必要とされる中国において、その需要が急速に高まっています。今回のトピックでは、中国のパワー半導体市場の概況及び今後の見通しについて解説します。
パワー半導体とは
パワー半導体とは、電力を変換・制御する役割を持つデバイスであり、特にEVや再生可能エネルギーの分野で活用されています。代表的なものには、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)やMOSFET(メタル酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などがあり、高効率でエネルギー損失の少ない電力管理が可能です。パワー半導体の具体的な利用分野としては、次のようなものが挙げられます。
1. EV(電気自動車)
EV分野では、パワー半導体は主要部品として、エネルギー効率の向上や電力制御に使われています。モーターの駆動やバッテリーの充電などを行うためには電流の変換が必要です。このとき、直流電流を交流電流に変換することを「インバーター」、交流電流から直流電流に変換することを「コンバーター」と言います。また、パワー半導体が持つ高耐圧や低損失という特性は、車両の航続距離や充電速度の向上にも貢献しています。
2. 再生可能エネルギー
再生可能エネルギーの分野では、主に太陽光発電や風力発電に使われています。例えば、電力を変換するインバーターや、電圧を調整するコンバーターといった役割です。また、高耐久性で低損失という特性は、送電ロスの軽減やエネルギー効率の向上だけではなく、クリーンエネルギーの普及にも貢献しています。
3. 家電製品
家電製品の分野では、電力制御やエネルギー効率の向上に重要な役割を果たしています。
例えば、エアコンや冷蔵庫などの家電は、インバーターの技術によってモーターの回転数を細かく調節し、省エネと静音を実現します。また、電子レンジやテレビの場合は、動作を安定させ、待機電力の削減を行う電力変換装置として使われています。こういった働きによって、ご家庭での快適性やエネルギー効率の向上をサポートしています。
4. 産業機器
産業機器の分野では、パワー半導体はインバーターやサーボドライブに組み込まれています。モーターの速度やトルクを精密に制御することで、生産効率やエネルギー効率を向上させる役割があります。また、工作機械やロボット、エレベーターなどでは、高耐久・低損失という特性を活かして、安定した動作と消費電力の削減をサポートしています。パワー半導体は、スマートファクトリー化や省エネ化にも欠かせない技術です。
5. 通信インフラ
通信インフラの分野では、基地局やデータセンターの電力供給システムで重要な役割を果たします。効率的な電力変換や安定した電圧供給を行うことで、通信機器やサーバーのスムーズな動作を支えています。特に、5G基地局では高効率の電力管理が必要とされるため、パワー半導体は消費電力削減と信頼性向上に大いに役立ちます。これによって持続可能な通信インフラの構築が実現するのです。
中国におけるパワー半導体のニーズ
2018年、中国は主要国における国別温室効果ガス排出量第1位でした[1]。電力消費量が多い中国では温室効果ガス排出量も多いため、中国政府[2]は2020年9月に「カーボンピークアウト」と「カーボンニュートラル」を目標に掲げました。こういった背景から、中国では次第に再生可能エネルギーやエネルギー効率向上のニーズが高まってきています。テクノロジー業界の市場調査報告[3]によると、中国のパワー半導体市場の年平均成長率は2023~2028年にかけて4.5%上昇すると予測されています。また、2027年には中国のパワー半導体の市場規模は238億ドルに到達する見込みとなっています。
[4]
また、フランスの市場調査会社[5]によれば、世界のIGBT市場規模は2019年から2026年にかけて13.1%の割合で成長し、2026年には121億ドルに達する見込みとのことです。世界最大のIGBT消費市場である中国は、2026年には国内の市場規模が35億ドルに達するとの予想です。業界をテーマにした報告書[6]では、MOSFETとIGBTはパワー半導体市場の成長を牽引しており、中国はパワー半導体の世界一の市場規模を有するとしています。2018年以降、ユビキタスネットワークにおける新エネルギーや、新世代通信ネットワークなどの新興産業が、パワー半導体の需要を大幅に押し上げました。2019年には貿易摩擦によって市場全体の収益が若干下降しましたが、2020年後半からパワー半導体の国内需要が増え始めます。しかし、生産能力不足も相まって、大幅な需要と供給のミスマッチが起こったため、関連する大手企業が徐々に価格を引き上げました。その結果、中国におけるパワー半導体の市場規模は2022年に1368.86億元まで成長し、前年比4.4%増となりました。
2018-2023年中国パワー半導体市場規模統計[7]
市場規模(億元)
中国のパワー半導体の競争力
「前瞻経済学人」に掲載された記事[8]によると、中国国内の半導体市場シェアはピラミッド型を呈しており、1段目を占めるのはアメリカ、欧州、日本などの国際的な大手半導体企業だということです。先進的な技術によって、その地位を確立しています。2段目を占めるのは、中国国内でIDM事業を行う少数の大手企業です。長期的な技術の蓄積を通じてある程度独自のイノベーションを形成しており、優位性を持つ一部の分野においては徐々に輸入代替を達成しています。3段目を占めるのは、特定の分野でのチップ設計・製造、パッケージングやテストなど製造の一工程を担う企業です。
中国国内の半導体製造企業5選
1. 無錫新潔能股份有限公司(NCE Power)
無錫新潔能股份有限公司は、特にMOSFETを中心としたパワー半導体の開発と製造に特化しています。他の半導体企業に比べて、製品設計から製造まで効率的なプロセスを採用しており、価格競争力に優れています。新潔能は中型・小型家電や通信機器向けの高効率半導体で強みを発揮し、中国国内市場におけるシェアを拡大しています。また、顧客のニーズに応じた迅速なカスタマイズ対応や、ローカル市場に密着したサービスが他社との差別化要因となっています。
URL:https://www.ncepower.com/
2. 華潤微電子有限公司(CR Micro)
華潤微電子有限公司は、パワー半導体と集積回路(IC)の主要メーカーで、設計から製造、販売までの垂直統合型モデルが特徴です。同業他社と比べて幅広い製品ラインアップを持ち、MOSFET、IGBT、アナログICなどの分野で高い競争力を発揮します。
特に、産業用や家電用のアプリケーションを得意としており、信頼性の高い製品を提供することで市場シェアを拡大しました。それ以外にも、中国国内での強固なサプライチェーンと、地元政府との連携を活かした成長戦略が他社との差別化ポイントとなっています。
URL:https://www.crmicro.com/
3. 聞泰科技股份有限公司(Wingtech)
聞泰科技股份有限公司は、スマートデバイスのODM(設計・製造受託)から半導体設計・製造までを手掛ける総合力が特徴です。同業他社よりも事業分野が幅広く、特にスマートフォン、IoT、車載用半導体での垂直統合型モデルが強みです。また、安世半導体(Nexperia)の買収によってグローバル市場での競争力を高め、先進的な技術と大量生産能力を両立しています。
URL:http://www.wingtech.com/cn
4. 杭州士蘭微電子股份有限公司(Silan Microelectronics)
杭州士蘭微電子股份有限公司は、パワー半導体、アナログIC、LEDドライバICなど多岐にわたる製品を販売しています。自社で設計から製造、封止(パッケージング)まで行う垂直統合型モデルが特徴で、コスト管理と品質向上に優れています。特に家電、照明、産業機器の市場で強みを発揮し、国内市場に密着した製品展開を行っています。また、独自の研究開発能力を活かして、第三世代半導体(SiC、GaN)分野にも進出するなど、先進技術への投資も積極的に進めています。
URL:https://www.silan.com.cn/
5. 斯達半導体股份有限公司(StarPower Semiconductor)
斯達半導体股份有限公司は、特にIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の開発と製造に特化しています。IGBTモジュールの設計から製造までを一貫して行い、電動車、再生可能エネルギー、産業機器などの高成長市場に対して高い競争力を有します。さらに、独自の技術革新やコスト効率の高い製造プロセスにより、中国国内外の顧客から信頼を獲得しています。また、中国政府の半導体産業支援を活用して急速に市場シェアを拡大している点も、他社との差別化要因です。
URL:https://www.powersemi.cc/
中国における市場トレンドと今後の展望
パワー半導体市場における最大の成長ドライバーは、EV(電気自動車)と再生可能エネルギーの二つです。中国は世界最大のEV市場であり、今後もEVの生産・販売は加速する見通しです。それに伴って、パワー半導体の需要も急増しています。また、太陽光発電や風力発電の普及により、エネルギーを効率的に変換・制御するパワー半導体の重要性が一層高まっています。
パワー半導体の分野では、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった新しい素材技術の利用が技術革新として注目されています。これらの技術は、従来のシリコンベースの半導体に比べて、高効率で耐久性も向上しました。そのため、今後の市場成長において重要な役割を果たすことが期待されており、中国国内では次世代半導体素材として研究開発が進められています。
しかし、中国のパワー半導体市場は成長しているものの、より発展するための課題は依然として多く残されています。例えば、市場集中度の上昇、技術革新への挑戦、国産化の余地、高級製品の国産化率の改善、国際競争力の強化などが挙げられます。
これらの課題を解決するために、中国政府は「中国製造2025」の政策において、半導体の自給率を2030年までに75%に引き上げる目標を掲げました。「国家集積回路産業投資基金」を通じて資金供給を行い、国内半導体企業の成長を支援しています。また、中国は先端技術へのアクセスが制限される中、独自の研究開発(R&D)を強化しました。製造設備や設計ツールなどの国内生産を進めるとともに、規制の影響を受けにくいレガシー技術に特化した生産体制を構築しています。政府は一部地域で税制優遇措置や補助金を提供し、地元企業の競争力を向上させる施策も実施しています。
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以上
[1] 出典:経済産業省 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-3.html
[2] 出典:中华人民共和国中央人民政府 日付:2021年10月25日
https://www.gov.cn/xinwen/2021-10/25/content_5644687.htm
[3] 出典:百度 日付:2023年4月19日
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1763586193826433984&wfr=spider&for=pc
[4] 出典:深圳市電子商会 日付:2023年4月25日
https://www.seccw.com/Document/detail/id/20108.html
[5] 出典:36Kr 日付:2023年11月14日
https://www.36kr.com/p/2517433026760705
[6] 出典:百度 日付:2024年3月18日
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1793831807843165958
[7] 出典:百度 日付:2024年3月18日
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1793831807843165958
[8] 出典:前瞻経済学人 日付:2022年6月17日
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/220617-bd13c599.html
著者情報
担当:IP FORWARD
中国ビジネスコンサルティング部