中国商標出願時における標識・指定商品の選定実務
中国において商標出願を行う際、商標標識及び指定商品の選定は、最初に検討すべき事項であるが、実際にどこまで、どのような商標標識、指定商品を選定するか等に関して、問い合わせを受けることも多いです。日本企業がよく直面する商標標識及び商品選定にかかる問題点につき解説する。
問題点1:どの標識で出願すべきか
中国で商標出願する際に、まず、どのような標識で出願すればよいか、決めなければならない。これは、出願人によってそれぞれ異なるが、原則として、中国で使用している、又は使用の予定がある商標を登録出願すべきである。例えば、会社名、商品名が異なる場合、それぞれの標識を出願すべきで、また、漢字、アルファベット、図形の標識が存在する場合も、原則として、全部取得すべきである。
<会社名の商標登録例>
<製品名の商標登録例>
問題点2:中国語商標をどのように考案すべきか、考案の際の注意事項はあるか
出願人が外国企業や外国人の場合、ブランドを中国の消費者に容易に識別、記憶してもらうために、外国語商標とともに、対応する中国語の商標も出願した方がよいと思われる。外国語商標の中国語を考案する際、漢字をそのまま中国の漢字に置き換える以外にも、外国語の発音と意味に基づき、中国語商標を選定することが多い。
<外国語商標の中国語商標登録例>
なお、中国語商標を選定する際に、かかる商標の意味や商標標識のデザインは中国において、「不良な影響」[1]があるかどうかについては事前に確認しておいたほうが良い。
通常、問題になることは多くはないが、日本語の漢字をそのまま中国の漢字に置き換える場合、日本で問題がないと判断されたとしても、文化や風習の違いで、中国においては「不良な影響」があると判断され、出願を許可しないケースがあるので、予め注意すべきである。
なお、2017年の「商標審査及び審理基準」には、「商標中に書き方が正しくない漢字が含まれるか、又は熟語の規範的ではない使用に当たり、公衆特に未成年者の認識をミスリードしやすいもの」は、一種の「不良な影響」として拒絶理由に明記され、最近、以下のような書き方が正しくない漢字に対する審査が厳しくなる傾向である。よって、中国語商標標識にデザインを加えた場合、この拒絶理由に該当するかどうか、心かげしたほうが良い。
<正しくない漢字が含まれるとされた例>
問題点3:日本語商標を出願すべきか
中国語、アルファベット、図形商標以外に、カタカナやひらがなの日本語商標を中国で取得すべきであるかどうかについても、日本企業から問い合わせを受けることが多い。カタカナやひらがなは日本語特有の文字であり、中国で使用する場面はほぼないため、出願する必要性は高くないと思われるが、越境ECサイトなどを通じて、中国で日本語商標の付された製品が輸入・販売される、又は、日本語商標の付された商品が中国でOEM製造、輸出されるなどの場合には、日本語商標も取得すべきだと考えられる。そして、知名度の高い日本企業の日本語商標は、中国の第三者に冒認出願されることが見受けられるところ[1]、これを防ぐために、知名度の高いブランドの日本語商標に対しては予め中国で出願することを検討しておくのが望ましい。
問題点4:カラーとモノクロのどちらで出願すべきか
カラー、それともモノクロのどちらで出願した方が良いか、も良く聞かれる質問である。通常、モノクロで出願する場合、カラーとは異なり、指定された色以外に、その他の色の商標標識を使用できる。すなわち、モノクロのほうが権利範囲が広く、このため、実際にも、モノクロで出願することは多い。他方、商標標識の色、色の組合せに、一定程度の認知度がある、或いは、商標の構成が簡単で、色で識別性を高め、拒絶のリスクを軽減したいなどの場合、カラーで出願することも考えられる。
問題点5:どこまで指定商品を選定して出願するか
どこまで商品を選定して出願するかは、非常に重要であるが、原則、以下の基準に従って、選定することが多い。
まず、実際商標が使用されている商品を選定するのは必須である。
次に、冒認出願防止や今後の業務展開に備え、前記商品の上位概念の商品やその他の周辺商品を選定するのを勧める。例えば、商標がドレスに使用される場合、ドレス(25類)を選定する以外に、その上位概念の「服装」(25類)、及び、周辺商品の靴(25類)、帽子(25類)などを選定する。さらに、予算が許す範囲内で、その他の区分の中の近い商品、例えば、18類のバック、14類のアックセサリも選定する。
ブランドが非常に有名な場合、他人の冒認出願を徹底的に防ぐために、近い区分に限らず、45類全類において商標を出願することも考えられる。
問題点6:具体的な指定商品をどのように選定すべきか
具体的商品は、通常、「類似商品及び役務の区分表」(以下、「区分表」という)及び2016年以降商標局の発布した区分表以外に受け入れられる商品リスト(以下、「リスト」という)に入った商品を選定して出願する。
【商品・役務区分表イメージ】
※1~34類は商品区分、35~45類は役務区分
区分表やリスト以外の商品で出願する場合、商品は規範的または具体的でないと指摘され、補正が要請される可能性が高く、それにより、出願審査は全体的に1~2ヶ月が遅れるので、できる限り最初から区分表やリストに入る商品を選定して出願したほうが良い。もっとも、新しい商品(例えば、「ビデオゲームおもちゃ用プログラム」)の商標出願に関して、区分表やリストから適切な商品名が見つからない可能性は高いので、一旦、当該新しい商品名で出願を試みても良い。この場合、商標局が他者の出願で既に認められた商品名や区分表等の標準商品名になるべく近い名称で出願する、或いは、新しい商品に対する説明を添付する等の対応も考えられる。そうした対応にもかかわらず、商標局は新しい商品名を認めず、補正が指示された場合には、出願が却下されるリスクを回避するために、区分表やリストに入る標準の商品名に修正したほうが良いと思われる。
著者情報
IP FORWARD法律特許事務所
中国弁護士